科学と哲学のUME式実ボク!

UMEのスパ天における実戦からチョイス、印象に残ったスパーを徹底解説!

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観戦記 電王戦FINAL第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery 後編


夕休が空け、都合1時間半ほどの時間を使って考えた末
斉藤五段の着手は、▲6五龍であった。


銀を取った!これで勝つる!


以下は解説どおりの手順で、△5六銀▲6四龍。
△6三歩なら長引くが角が隠居しありがたい手。△6六歩だと恐らく7七まで龍を引かされて少々億劫か。
本譜は後者、△6六歩▲同龍△6五歩▲7七龍と進む。持ち駒をほぼ全て投入し局面をなんとか後手が戻した格好。


散々解説されたとおりの順へ進む


ここから△2七角成と出る手がなかなか手ごわく、まだまだ勝負は続くというのが解説の意見であったが、
後手は△2二飛と回る。
一度歩を叩く手も感触がよく、4九の金を3九に寄るだけで△2九飛成を消せる。一目ありがたい手に見える。

以下は△2七角成としていた場合の仮想局面である。


習甦の読み筋による進行はこう。4一の銀と1二の飛車の位置はやや不確定


解説通り▲2三歩△3三飛▲3九金と進み、後手からの追撃は△4五角。
まだまだ楽勝とはいえないにせよ、やはり一目△2七角成に比べ損しているように感じる。

これに対しては▲4六歩と一回入れるのが上手い手で、7二への利きと6七への利きのいずれかを消せる。
2二の飛車を2三に釣り出した効果で飛車の横利きも消え、先手からは6一角が絶好。
なので後手から何か妙手が必要な局面だが、一直線に局面が進む。

▲4六歩△6七と▲4五歩△7七と と後手は龍を取る。
龍を取るよりは△6六歩と繋ぐ方がまだ良さそうに見えるし、事実上龍と角・と金の2枚替えである。
現地解説会の村田五段がこの手を見てテンパった様は、今局のハイライトである。
(「この手は絶対ないでしょう!」みたいな前フリがきっとあったんだろう)


村田五段「りゅりゅりゅ、りゅうを取ったんですかぁ!?」


先手は▲同桂。これもまた攻めにも利く味の良い手。
△6六歩と応援、しかしここで▲6八歩が利くのも心強い。
恐らく決めにいく順もあるが、6八歩といったん構えてから勝負が本線と解説される中、斉藤五段の手がしなる。
▲6一角と最短で決めにいった。



「運命は勇者に微笑む」を体現する一手となるか?


一手差で勝ちを見切った、だが同時に怖い手順ではある。恐らく△6八歩のほうが安全であっただろう。
しかし斉藤五段は6八歩の安全性と、勝負が長引くことのリスクとの比較で、踏み込む選択肢を選んだ。
コンピュータを恐れず、侮らずに踏み込んだ。気力充実の一着といえるだろう。

先手は△6七と、目をつぶって先手陣に迫る。
しかし▲6二銀の詰めろが激痛。△同銀▲7二金△9二玉▲6二金 が銀を取りながらの詰めろなのだ。
後手が何もしなければ▲8三角成△同玉▲7二角。
引けば▲8三銀、上がって一番長くとも△9四玉▲8四銀△9五玉▲9六歩 まで。




斉藤五段、強すぎる


コンピュータには形勢を悲観したときにしばしば出る「水平線効果」という現象がある。
すぐそこに迫っている自身の負け(ないしそれに順ずる劣勢の局面)を先延ばしにするため、
無駄な手を出してしまうことがある。
自玉必至で相手玉詰まないという局面での王手ラッシュが有名である。
(コンピュータの詰み発見能力と相まって、区別がたまにつかずちょっと怖い)

後手は△7九銀と王手で捨てる。これは「粘り」と「水平線効果」のちょうど狭間にあるような手である。
玉を6筋まで釣りだして例えば△6四飛等で金を抜き、なんとか自玉の詰めろを外そうとしているのだ。

▲同玉に△6八金。▲8八玉とかわせば大丈夫だが一見怖い。
▲同玉なら△6六飛か6四飛で6八の金を抜かれて長引く。
しかし斉藤五段、きっちりと見切って△8八玉。▲6一角と踏み込んだ手と一貫性のある、強い姿勢だ。

△7八金と銀を取り▲同玉に、△8九銀。さらに水平線効果寄りの手といえるだろうか。
なんとかして十字飛車で6八の金の素抜きをしたい後手だが、ここも先手は勇敢に▲7九玉とかわす。
△5九飛なら▲8九玉、△7八飛なら▲6九歩でともに詰まない。



最後の抵抗を凌ぎきった


視聴者としては、完全に安心できた一手が次の▲7八銀成だろう。
打ったばかりの銀を成り捨てて玉が戻る、銀を相手の駒台に渡す以外の意味が皆無の手である。つまり、万策尽きたのだ。


ついに出た水平線効果、事実上の敗北宣言


開発者の平岡氏によると、今回のAperyは投了をしない設定になっているとのこと。
もう残された手段は王手ラッシュのみ、後手は可能な全ての手段を尽くして王手をかける。
しかしもちろんそれでミスをするプロ棋士ではない。冷静に駒をひとつずつ外し、勝ちが目前に迫る。



これも綺麗な決め手である


可能な王手を全てやり尽くし、まさに矢尽き刀折れたApery、そっと△9四歩と突き首を差し出す。
以下▲8二金△同玉▲7一角△9二玉▲7二飛で詰み。
一応電王戦では無駄合いもカウントするらしく、△8二金▲同龍まで。115手をもって先手斉藤五段の勝ちとなった。



電王戦FINAL第1局は人間の勝利!


局後の会見では、まず斉藤五段と平岡氏ともに相穴熊での戦いを想定していたらしく、
本局の△6五銀と繰り出すあたりはお互いにとって予想外の進行であったという。

他に斉藤五段は、いくつか途中Aperyが一旦受ける手を選んでいたら難しかったかもしれない、とも語っていた。
確かに本局はAperyが勝負どころでことごとく一直線に攻め合う手を選び、
しかしそれがことごとく自身の劣勢を早めたように見える。
乱数等による偶然もあったかもしれないが、平岡氏は「棋風と戦法があっていなかったのかもしれない」と
根本的な問題も感じていたようであった。

一局を通じてAperyは自身の形勢をかなり悲観していたらしく、
中盤の△4四角▲5五角△同角▲同歩という応酬が、どうもその悲観の末出た水平線効果だったらしいとのこと。
この応酬によって先手が0手で突き越せた5五の歩も先手に得に働き、Aperyとしては不本意な出来となってしまった。


平岡氏が語るところによると、「Aperyの読みを外す手を指され、そのたびに評価値が下がった」とのこと。
COMは当然自分の判断基準によって手を評価するので、通常読み筋にない点数を指せば
一時的にせよ点数は自身有利に傾く。
そうでなかったというのは、これも平岡氏が語っていたが、斉藤五段がことごとくAperyに読み勝ったということなのだ。
プロ棋士も「ノーミスで指し切った」と絶賛する、素晴らしい差し回しであったといえるだろう。


最終盤の王手ラッシュに関しては、斉藤五段に事前に断りをいれていたとのこと。
少々見せ場のない局面が一定時間続いてしまうことにはなったが、
現在プロ棋士を凌駕せんとする勢いを持つコンピュータ将棋も、一見幼稚なこの王手ラッシュからスタートした技術なのだ。
Aperyはその全てを曝け出して、華々しく散っていった。

解説の鈴木八段はいささかうんざりしていて、怒りの態度を示しているようにも見えた。
これが少々残念でもあったが、しかしプロ棋士はこれを潔しとしない文化から生まれた人種であり
これを侮辱と感じるのも、当然の感覚であろう。

だがコンピュータからすれば負けを確定させない手を選ぶのはきっと当然であり、
議論を呼ぶラストも電王戦という「共存共栄」のテーマを思えば、意義のあるものだったと思う。

勝負の勝ちだけを追い求めるなら、投了に勝る悪手なしであり、コンピュータはどこまでも諦めない。
正確にいえばコンピュータに「心」があるわけではなく、コンピュータは負けないための手順を
盤上のルールに従って、粛々とただ実行するのである。
そこを「見苦しい」、あるいは「諦めない気持ち」と、感情に例えて受け取るのは我々人間の観点によるところである。
「共存共栄」とはきっと、コンピュータの無機質な一手一手に、
我々人間が何を見出せるか、というところがミソなのではないだろうか?

異なる思考ロジックを持ち、生物無生物という大きな違いを持つ者同士が
将棋というツールにおいて平等に対峙する、電王戦というイベント。
その素晴らしさの醍醐味が詰まった名局、とくと堪能させていただいた。

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  1. 2015/03/17(火) 16:51:51|
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観戦記 電王戦FINAL第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery 前編

格闘技ファンにはおなじみ佐藤映像のPVをオープニングに
いよいよやってきた3回目の、最後の団体戦。電王戦FINALが始まった。

先崎九段(確か当時八段)が第3回電王戦の観戦記で述べられていたが、
電王戦が終わると名人戦と、季節の風物詩のように定着してきた感も出てきた。
しかし「団体戦形式の」電王戦は今回が最後となる。

この楽しい時間もあとわずかなのか、と一抹の寂しさも含みながら、
しばらく週末が楽しみで仕方がない幸せな時間がやってきたことに興奮している。


バージョンアップしてメタリックになった「電王手さん」、やたら現代風にセットアップされた二条城の対局場。
ニワンゴ社将棋中継の集大成の電王戦、やはりどこか緊張感が漂う中
読み上げの北村女流に気さくに話し掛ける、全く緊張していない様子の福崎九段がなんだか愉快である。
すでに対局場に入ったApery開発者平岡拓也氏の表情にも緊張感が見て取れる。

満を持しての斉藤五段が登場、外から傘を差して歩いてくると突然なんだかかっちょいいBGMが。
絵になりすぎるくらいイケメンで、しかしそれにしてもあざとすぎる演出になんだか爆笑してしまった。

両者駒を並べ終わり、斉藤五段の先手番で対局が開始された。
注目の初手は▲7六歩。

1-76fu.jpg
電王戦FINAL開幕


△3四歩▲2六歩と進み、作戦の分岐点にもなる可能性のある注目の4手目は、角道を止める△4四歩。
後手のAperyは振り飛車の可能性が高まった。

▲2五歩と伸ばして△3三角と受け、▲4八銀と上がって態度を見る。
当然Aperyの定跡データベースの範囲内だと思うが、ここまでノータイムの応酬が止まり
Aperyが時間を使って考え始める。

定跡の範囲内でもある一定の確率で、自力で考えた最善手を指すことがあるという話もどこかで聞いたが
今回はここでその条件にあてはまったのだろう。
普通は△2二飛車と向かい飛車、あるいは△4二飛車と回って四間飛車にするかである。

COM同士の対戦では、振り飛車はややタブーとされている。明白に勝率が悪いからだ。
出場ソフトを決める「電王トーナメント」では「激指」の敗退が話題になったが、
振り飛車でいくらか星を落としたのが目に見えて響いていた。

しかしながらCOM対人間ではまた少し事情が違って、
電王トーナメントでは一部ソフトが封印していた振り飛車を解禁したとのこと。
これは別に人間の力を侮っているからではなく、大きく作戦負けしないための戦略である。


AWAKE開発者の巨瀬氏は
「相居飛車の将棋だと一つの大きな悪手で決まってしまう恐れがあり、対抗系ならある程度均衡が保たれる」
とその理由を述べており、今回の対局者であるApery開発者の平岡氏も
「対抗系で中終盤の捻り合いが長い将棋になったほうがCOMには有利」という見方のもと
振り飛車を解禁しており、結構出現率は高いらしい。

10分ほど持ち時間を使い、Aperyの着手は△4二飛車。いわゆるノーマル四間飛車である。
プロ間ではほとんど指す人がいなくなった戦型で、その理由は居飛車穴熊の台頭である。


8-42hisha.jpg
後手の戦型は四間飛車に


「四間飛車に美濃囲い、駒を捌いて玉型の堅さで勝つ」と従来いわれていた四間飛車という戦法は、
美濃囲いより堅い居飛車穴熊の出現によって非常に勝ちづらくなり、いつしかプロ間では敬遠されるようになった。
居玉のまま穴熊に組まれる前に攻め潰す「藤井システム」なども一時台頭したが、主力にはならず
結局ノーマル四間飛車の勢力回復には至らぬまま今日に至る。

ではこの戦法ならウェルカムかというと、そうではないことを我々将棋ファンは知っている。
第3回電王戦第2局、居飛車穴熊に組んだ佐藤信哉六段に対し、やねうら王がノーマル四間で勝利しているのだ。

この対局で広く知られるようになる以前から、「COMの振り飛車は強い」という評判は常々あった。
しかしがっちり穴熊に組んだプロにCOMが四間飛車で勝つというのはやはりショックが大きく、
四間飛車を敬遠していたプロ棋士達の感覚が間違っていたのか、
はたまたそれだけ手合い違いの力の差があるのか、ということも見直させられるようなインパクトがあった。
(もちろん一局の将棋でそこまで言い切れるものではないが、電王戦の注目度はそれほど高い)


本局も「ノーマル四間には居飛車穴熊で作戦勝ち」としていたプロ棋士達の大局観が正しいのか、という
大きなスケールを背景に据えた戦いに進んでいくことになるかもしれない。

それでも普通にみればありがたい部類の作戦分岐だと思いたいところだが、
カメラが切り替わって映し出されたのは、ぼやきながら頭を抱える斉藤五段の姿であった。

単なるクセのようなものだったのか、何かの誤算があったのかはいまいちわからないところだが
ひとまず指し手は普通、▲6八玉と上がって囲いにいく。
(このあたりを見て、斉藤五段が一番自信のあった戦型・作戦はどのようなものだったか聞きたかったが、局後の記者会見でそれを聞いてくれる記者は残念ながらいなかった)


9-68gyoku.jpg
さんざんぼやいて玉を上がる。何か誤算があったのだろうか?


後手はまだ作戦的にいくつか含みがある局面。△7二銀として藤井システムにするか、
玉を8筋9筋方面に囲うかが注目だったが、△6二玉として囲いを優先。
お互いまずは囲い合う将棋となりそうである。

15手目、斉藤五段の▲7七角。一般的に持久戦を宣言する手といわれる。
以後先手玉を穴熊に囲うのがメインで、しかし何もなければ▲6八角と引いて2筋の歩を切る狙いもある。

対するAperyは△5二金。穴熊に囲った後に右辺に飛車が振る手が消え、
かつ美濃囲い7一玉型が消えている等、プロから見ると作戦的に狭まり損であるとのこと。

お互い囲いに進み21手目、斉藤五段は▲9八香と上がる。9九に玉が入れば穴熊。
対するAperyは△5四銀と出て勝負の含みを見せる。

▲6六歩や▲6六銀などが考えられ、どちらも有力で且つかなり違った将棋になりそうな局面。
ここで次の一手アンケートなどが行われつつ昼食休憩に入った。

先手から▲6六歩なら囲い合いになり、先手玉は穴熊に、後手玉は美濃囲いか穴熊どちらかというのが一つの焦点になる。
実戦は▲6六銀となり、急戦調・持久戦両方の含みが見られる進行になった。
後手が銀をぶつける手順を選べば戦いが早くなりそう。

23-66gin.jpg
なんとなく戦いが起こりそう


△6四歩に対し▲7八金と仕掛けに備え、△4五歩と突き越した手に対し
▲5七銀と戻れるのが▲7八金と上がった効果で、△7七角成には▲同金として陣形を乱さず構えられる。

そこで後手は△6五銀と繰り出す。「振り飛車には角交換」の格言どおり
先手から▲3三角成△同桂▲2四歩の攻めが見えみえで、
普通に見るとどう考えても先手が得をしそうな局面に。嬉しさと不気味さが半々である。


28-65gin.jpg
この仕掛けは成立しているのか?


局面はその通り進み、▲3三角成△同桂▲2四歩、△同歩▲同飛車に△4六歩と後手から反撃。
しかし後手陣は7二銀と上がる手を保留したデメリットで、6一の金が浮いている。悠々と▲2一飛成と成り込む。


お互い真っ直ぐ進むといかにも先手が得なので、一旦後手が受ける展開が大盤では解説されていたが、
△4四角▲5五角△同角▲同歩という応酬の後、Aperyは△6三歩成と一直線の攻め合いを選ぶ。
▲6一龍は当然で、金を取りながら後手玉に迫る。

41-61ryu.jpg
先手かなり優勢に感じる局面だが、習甦の評価値は先手+100程度。とてもそうは見えない。


何もしなければ▲7二金と打って必至(△同銀は▲7一角 △9二玉 ▲7二龍で詰み、△9二玉 ▲7一龍で必至)。
ということで△7二角と受けざるを得ない。

1回▲4三歩△同金と叩きが入って▲6四龍と銀に当てながら引く。
先ほどの△4四角▲5五角△同角▲同歩の応酬も先手にとって得に働いていて、△5四金という決め手が消えている。

仕方なく後手は△5七と、と銀を拾う。▲6五龍と銀を取り返すのがまず見える手で、
一度▲4四歩と叩きを入れるかどうかが若干悩ましいが、銀を取るのが普通の局面か。
斉藤五段がここで長考に入る。

さすがにある程度したら銀を取るだろう、と予想されるところだが
中々指さず、そのまま刻々と時間が過ぎていく。

これはプロにいわせれば危険な兆候で、恐らくすぐ取るのがベストで
ヘタに時間をかけて他の手を読んでしまうと、その後結局6五龍とするなら考えた時間の損だけが残ってしまう。
なのでどうしても他の手を指したくなり、そのために自分にとって都合の良い読みをしてしまいがちだという。

解説の鈴木八段、観戦記担当の先崎九段共にこの意見で一致、特に鈴木八段は
「▲4四歩なら負けると私は思います」とまで語り、心配そうに見つめる。

恐らくここが最大の勝負どころで、恐らく斉藤五段は「早く銀を取っておけば」という後悔も感じていたことだろう。
▲6五龍と銀を取ったら後手から△5六銀と龍に当て、▲6四龍と浮いたのち
△6六歩▲同龍△6五歩▲7七龍がぱっと見える進行で、後手には△2七角成などの追撃もありうるさい。

読んで見たら思っていたほど優勢ではなかった、と感じて▲4四歩を読んで見て、
銀をおとなしく取るのがよさそうとわかっていながらも、読めば読むほど▲4四歩に気持ちが傾いていったのではないだろうか。
斉藤五段は決断を躊躇した後悔や楽をしたい気持ちと必死に戦いながら、我慢の時間を自身の読みと共に過ごす。

そうこうしているうちに1時間近くの時間が経ち、夕休の時間間近となった。
斉藤五段はひとまず自身の時間の損失を受け入れ、夕休に入ってさらに読むという選択肢を選んだ。

46-57to.jpg
頼む、銀を取ってくれ!


後編へ続く。


  1. 2015/03/15(日) 17:42:27|
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電王は名人の夢をみるか?

「今回の電王トーナメントで優勝したら、クラウドファンディングをして名人と戦う道を道を模索しようと考えてます。」

開発者の山本一成氏はそう戦前に語り、そして当トーナメント2年合わせて21戦全勝、ponanzaは決勝まで駆け上がった。
ponanzaが自身の評価値で1000点以上のリードを付けての終盤戦、先んじて対戦相手のAWAKEの評価値が1000を超え、やや遅れてponanzaが-400ほどまで急転直下。
あっというまに急上昇するAWAKEの評価値と、急降下するponanzaと、その通りに進む局面。
解説の西尾六段、立会人の遠山五段、現場の開発者達全員が具体的な原因がわからない。しかしわからないままに局面は
後手ponanzaの敗北へ向かって進んでいく。
この先にあるであろう、電王が電王でなくなる瞬間に、会場はただただ静まり返っていた。

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電王トーナメントに先立って、前回電王戦にも出場したYSSの開発者、山下宏氏の論文が話題になった。
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=106492&item_no=1&page_id=13&block_id=8

「将棋の歴代名人の強さを勝敗の結果と棋譜の内容から推定する。勝敗の結果から計算された2種類のレーティングは、どちらもこの20年間、羽生が最強のプレイヤであることを示した。またプロ、アマの合計6,500棋譜を将棋プログラム、Bonanza、GPSFishで解析した結果、羽生名人は大山15世名人よりレーティングで約230点上らしいことが分かった。同時に20棋譜程度で、すべての将棋プレイヤの棋力を推定できることを示した。」
と書いてある通りの内容であるが、非常に緻密に、それでいて実験的な手法でプロ棋士のレーティングの推測を行っている。

これによるとどうも、コンピュータによってプロ棋士の「悪手率」を調べることが、棋力の認定としてそこそこ有力らしいという。
Bonanza6.0やGPSfishを使い様々な視点からこれらを精査していくと、例えば森内竜王が2日制よりNHK杯の時間設定のほうがレーティングが高かったり
COM同士読み筋が合うのか、COMに対する悪手認定がうまく働かないということだと思うが
NDFのレーティングがさすがにあまりにも高くなりすぎるとか、改良の余地もいくつか見えるということがわかるものの
やはりどのような視点からみても、明らかに羽生善治名人はプロ間においても一つ抜けた存在であるということが、はっきりと示されている。
何せデータ通りに読めば、NHK杯の時間設定で2日制のタイトルを獲れる計算なのだ。

そしてこの論文は、以下の言葉でちらりと山下氏の本音をちらつかせて終わる。
「それでもなお突出しているのは羽生の点数であり、羽生とソフトの対決を期待してやまない。」

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コンピュータ将棋と名人、という2つの単語を並べると、やはり伊藤英紀氏の名前を出さないわけにはいかない。
伊藤英紀氏はコンピュータソフト「ボンクラーズ」及びその後継機「Puella α」の開発者である。
第1回電王戦で故 米永邦雄永世棋聖と対戦して勝利、第2回電王戦で塚田九段と引き分けた。
電王戦PVにおいてヒール役をつとめ(仕立て上げられ?)、「コンピュータ将棋は既に名人を越えた」という発言が話題になった人物である。

http://aleag.cocolog-nifty.com/

彼がブログで電王戦の裏話をあれこれ書いていたのが一時話題になり、私も全て目を通している。
伊藤英紀氏は今将棋連盟、マイナビ社、内館牧子氏に対する訴訟を起こし、法廷で争っていて
その過程がどうなっているのかはブログの更新が滞っていて把握できていない。いずれにせよなんとも残念なニュースである。

http://aleag.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-8c5c.html

「改めて「自分の目標はどちらなのか。名人に勝つこと?名人を超えること?」と問うたとき、答えは明らかに後者でした。私はやはりエンジニアですから、「技術の到達度を確認すること」によって達成感を得るのです。勝負自体には特にこだわりはなく、勝負せずとも、超えたと客観的にわかるデータがとれればそれで十分。「Xデー」の定義は、名人に勝つ日でなく、名人を超える日とする方が適切でしょう。また実際問題、渋る相手との対局を実現するためにいろいろ政治的?な駆け引きやらをするのは「そんなの俺のやることじゃねーよ」という感じで、正直関わりたくないことでした。」

「(~中略)5月のWCSCまでは開発を続けることにしました。4月頃には完成し、11年版よりたしかにレーティング150程度上がったことが確認でき、この時点で名人越えの確信を持ちました。12年5月のWCSCではGPS将棋に次ぐ準優勝になりまして、これを最後にコンピュータ将棋の開発からは手を引きました。名人を越える「Xデー」は、11年だった可能性も若干あるが、おそらく12年だったろう、というのが現在の私の見解です。10年の時点ではまだ名人には届いていなかったでしょう。」

まとめると、「名人を超えることを目標に作っていたが、名人と戦う機会が訪れないので、名人をレーティングからの推測で"超えた"とどの時点で見れるかと考えることにした。その結果恐らく12年4月(第2回電王戦の1年前)の時点で名人を超えたといえるだろう」ということである。
この見解がどの程度正しいといえるかは正直分からない。

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名人というのは将棋界における頂点であり、象徴である。
そして歴代名人の中でも間違いなく最強であろう男、羽生善治名人。
将棋に興味のない人でもその名前を知っている、将棋界というよりもはや"将棋の象徴"とすらいえる存在だ。

あらゆるコンピュータ将棋開発者が、彼と戦う日を夢見ていることだろう。
最初はルール通りに指すことが精一杯であったであろうソフトが、定跡を積み、手筋を覚え、
自分の棋力を超え、コンピュータ将棋界で頂点に立ち
将棋界の頂点である羽生善治と戦う。多くの開発者が、ここを目指してやっているはずだ。

しかし、戦えないのだ。勝てない、のではない。戦う機会は、コンピュータ将棋が強くなれどもなれども訪れない。
そして次回で電王戦はFINAL、5対5の団体戦は終了となる。

「日本将棋連盟におけるタイトル戦は、スポンサーとなる(主に)新聞社の協力によって成り立っている。
従ってタイトルはスポンサーの持ち物であり、タイトルホルダーを将棋連盟が勝手に電王戦に出すわけにはいかない。」
この文言はいわば"鉄の掟"であり、2007年の渡辺明竜王(当時)対Bonanzaを最後に
いまだに現役のタイトルホルダーとコンピュータ将棋との対局は行われていない。


伊藤氏がコンピュータ将棋の世界から身を引いて以降、「名人」という単語は
どこかコンピュータ将棋界でタブーのようになっていたように見える。
第3回電王戦に出場した各開発者からは、名人と戦いたいという言葉は聞かれなかった。
伊藤氏の言葉を借りるならば、「仰ぎ見る対象であればこそ、勝ちたいと思う」に決まっているであろうに、だ。
それはきっと、ここまでの将棋連盟の対応の経緯を見た上での、諦めの気持ちもあったのではないだろうか。


その均衡を破ったのは、ponanzaの開発者の山本一成氏であった。
第2回電王トーナメントのPVにおいて、山本氏はこう発言している。
「名人と戦いたいです。戦える場が欲しいです。舞台が欲しいです。」と。
あくまで勝ちたい、ではないのだ。名人と戦うという機会が訪れないまま、人間対コンピュータの戦いがフェードアウトしていくような今の流れにあって、
それを良しとしているわけではないんだ、と開発者を代表して、必死に宣言したように私には見えた。

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そして冒頭の発言である。
http://ponanza.hatenadiary.jp/

「クラウドファンディングをしてお金を集める」という方法論がどこから来たのかというと、
これは故 米長永世棋聖が、"羽生名人と戦うのであれば対局料は7億円必要だ"と発言していたからである。
羽生名人自身が「コンピュータともし対局するのであれば、1年間すべての対局を休んで研究する必要がある」と答えたそうで
それを元に試算した金額が7億円とのことだ。
この経緯、あちこち突っ込みどころがあるような気もするのだが、これが当時の将棋連盟としての回答だったのである。

米長氏が亡くなり、連盟会長は谷川浩司氏となった。
タイトルホルダーとコンピュータとの対局に関して、電王戦の記者発表の際質問されたときに
「いつも悩んでいて、ずっと自分の中でも結論が出ないまま」と本音をちらつかせたことがあった。
勝負事における礼儀として、負けた将棋連盟側が最強と呼べる存在を出さないままでいることに対する葛藤、
それで負けた第三回電王戦に対する悔しさ、スポンサーに自分から進言することが立場上できないというジレンマ、等々
色々な感情が、そこには含まれていたように感じた。
こういった感情が、恐らく多くのプロ棋士達にあるのではないだろうか。
羽生名人がコンピュータとの対局について聞かれると、笑いながらもやや苛立ったように
「私に聞かないでくださいっていつもいっているんですよね(笑)」と答える姿は、やや異様である。
はっきり言い切ってしまえば、あの将棋大好き名人が、コンピュータとの対局に興味がないわけがないのだから。

そして山本一成氏は、堂々と宣言をした。
「今回の電王トーナメントで優勝したら、クラウドファンディングをして名人と戦う道を道を模索しようと考えてます。」と。
名人と戦うということに対する賛否両論、対局にもし羽生名人が負けたとしたらそのときに将棋連盟が受けるダメージ、スポンサーに対する配慮、
そしてそれでもこの対局を見たいと願う、多くの将棋ファン。
様々な意見が交差して答えが出ないまま膠着状態にあったこの問題に、「名人と戦いたい」とはっきりと意思表示をすることで
一石を投じたのである。

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11月1日から3日間、第2回電王トーナメントが行われた。
これは次回の電王戦FINALに出場する5ソフトを決める大会である。
ルール通りに指すこともおぼつかない出来たてのソフトや、筋違い角しかしないという個性的なソフト(去年当ブログで取り上げた)、
短い期間でBonanzaメソッドとStockfish探索という最短距離を通って強くしたソフトなど、その顔ぶれは前回にも増して様々である。
優勝候補はなんといっても電王ponanza。その他有力候補は満を持して登場の有名市販ソフト激指、
コンピュータ同士の対局が行われているfloodgateにおいて、今大会参加ソフト中最高レーティングを叩き出しているAWAKE、無印から大逆転で世界コンピュータ将棋選手権を優勝したAperyなどが上げられる。
以下突貫工事で挙動が心配ながら地力は高いとみえるやねうら王、第3回電王戦MVP習甦などが挙げられる。

初日はとにかく激指の大苦戦に驚いた。最終戦に勝って予選通過ギリギリの11位。
AWAKEはApery戦で必勝の局面から256手ルールに引っかかり引き分けなどが祟り7位、等々意外な結果もありつつ
全く強さがブレないのがponanzaで、8戦全勝と文句なしで1位通過を決めた。


2日目、決勝トーナメント1回戦は習甦対激指が好カード。ここで負けたソフトは敗退となる。
私は2位か3位あたりに入ると予想していた激指は、長時間の勝負になると力を発揮するといわれている習甦に破れ
電王戦出場を逃すという結果に終わった。
初日に振り飛車で星を落としたこと、純粋に全体のレベルが上がっていること、そして時の運。原因はいくつか考えられ、そのどれでもないと同時にどれでもあるのだろう。
激指開発者の鶴岡さんは、コンピュータ将棋の歴史を語る上で決して外せない重要な人物。彼を電王戦の舞台で見たかった。
2日目は最終的にponanza Selene AWAKE やねうら王 の4ソフトが勝ちあがり、電王戦出場を決めた。
残った1枠を5位決定トーナメントにおいて、さわにゃん N4S Apery 習甦 の4ソフトで争うこととなった。

そして今日、3日目はいよいよ大詰めである。
まず5位決定トーナメントであるが、優勝はApery。対習甦戦、対N4S戦どちらも磐石の差し回しであった。
世界コンピュータ将棋選手権優勝の際に「もっとも最強ソフトと力の差がある優勝者だったと思う」と謙虚に語っていた開発者の平岡さんであったが、
やはり高い実力をもったソフトであることを証明したといえる。と同時に、このソフトで5位というのは末恐ろしい。

そして決勝トーナメント。ponanzaはSeleneの序盤のミスを突き早々に作戦勝ち、龍を作って攻めまくりそのまま潰しきってしまった。もう一方はAWAKEがやねうら王の攻めをきっちり受けきり、切れ味鋭く攻めて快勝(6六桂がかっこよすぎる)。
はっきりと力の高さを見せ付けた両ソフトによる、頂上決戦が決勝にて実現することとなった。


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後手ponanzaは、AWAKEの初手▲7六歩に対して△3二金。
これは開発者の設定した決め打ちで、準決勝と同様の作戦。一般的にここから先手は振り飛車にすれば有利とされる。
しかしやはりコンピュータ将棋において振り飛車は明白に勝率が悪く、決勝トーナメントにおいては
初手▲2六歩を決め打ちし、強引に居飛車にする作戦も見られたほどだ。

それに対してponanzaの山本氏は、準決勝において初手▲7八金という作戦を見せた。
つまり定跡を外し、相手に振り飛車に組ませることによって作戦勝ちを狙う、ということだ。
そして同様に決勝でも2手目△3二金としたのだが、AWAKE開発者の巨瀬氏、これを読みきっていたそうだ。構わず▲2六歩と突き居飛車を宣言。
将棋は急戦矢倉模様、力戦調の戦いに進んでいく。

52手目、後手のponanzaが△8七銀打と放り込む。
8七の地点で清算し、飛車を切っての猛攻。戦前の予想どおり
「ponanzaが攻め切るか、AWAKEが受けきるか」という構図の将棋となった。

この攻めが切れているのかいないのか、全くよく分からない中103手目、▲5一飛車と打ち下ろして
AWAKEが反撃の含みを見せる。
以下△4一歩▲9六角△4二金寄▲2四歩と進み、後手ponanza陣に時限爆弾が仕掛けられた。

そして運命の116手目、△6七銀。これを指す直前にAWAKEの評価値は1000を超え、指した直後にponanzaの評価値は-400と大暴落した。
直前の115手目、▲4三角成と角を切ってきたAWAKEの手に対して、ponanzaの読みでは同金と取って勝つはずであった。
しかし同金に対しては▲2二金△同玉▲5二飛車成からなんと後手玉が詰む筋が発見されたとのこと。
コンピュータ将棋は長手数の詰みが絡んだときに、長い手数の先にある相手玉の必至の、その先の自玉の詰みを見逃すことがしばしばある。
第2回電王戦におけるツツカナ-船江五段戦の△6六銀が有名で、銀を捨てて相手の詰めろを消して勝ちだと思った矢先に
銀を捨てたことによる新たな詰み筋が生じてしまい、形勢が一気に逆転してしまったのだ。
http://news.mynavi.jp/articles/2013/04/10/denousen/002.html

ここからは、手元のBonanzaを使ってあれこれ検討してみた。
https://www.youtube.com/watch?v=jTpwGQwjpjU 携帯片手にあれこれやってます
122手目△4二金打は▲同龍△同歩▲2三歩成△同玉▲4一角から即詰み、
128手目△5三玉は▲3四角△2二玉▲4三角成から勝ち、どうも受け無しらしい。(BONANZAが受けるがどれも詰んだ)
134手目△5六角と頑張って2三の歩を抜いても、▲4二龍と入って勝ちと。△3二歩と粘っても▲2四歩ぐらいで、△3二桂と逆王手しても▲同金で勝ち、ということで
それをponanzaも悟ったのか、134手目から王手ラッシュとなってしまった。

勝負は時の運、将棋の奥深さゆえのドラマ。様々に理由を書くことができるのは、激指の敗退と同じである。
しかし確かなことがひとつだけあるとすれば、恐らく少なくともこの変化に関しては、AWAKEはponanzaに対して明白に読み勝ったのだ。

評価値はponanzaが-3000あたりから、1手指すごとに500ほどずつ下がり続ける。
一足早くAWAKEは9999と表示。お互いが詰みを読みきれば、コンピュータ同士の戦いでは一瞬で盤面が進み勝負がつく。
ponanzaが自身の負けを読みきった次の瞬間に、この勝負は終わる。
それまでのわずかなこの猶予時間、必死で勝ちを探そうと1手に時間をかけるponanzaと、ひとつずつ駒を取り終局へ向かっていく次代電王AWAKE。場内は静まり返り、「その瞬間」を見届けようとしていた。


そして、そのときは訪れた。訪れてしまった。
高速で盤面がバババっと動く。どうやら王手を連続で掛けているらしい様子だけがうっすら確認でき、勝負の決着を皆が悟る。
159手まで、ponanzaの21連勝の先にあった電王トーナメント初黒星。先手AWAKEの優勝で幕を閉じた。
大会前に「名人と戦いたい」という宣言をした山本一成氏。しかしその悲願は、一旦お預けとなったのだろうか。

表彰式では涙を浮かべ、「頭の整理がつかない」と述べていた山本氏。
対するAWAKE開発者の巨瀬氏は元奨励会三段とのこと。(訂正:一級で退会とのことでした。コメント欄にてご指摘を頂きました)プロ棋士の夢破れ、コンピュータ将棋開発の道へと進み
1年でレーティングを500上げてきたという。
その情熱たるやすさまじいものがあったと思うが、優勝のスピーチにおいては
「勝負の勝ち負けにそこまでこだわるつもりはなく、コンピュータ将棋と人間が関わりあっていくことで
お互いがレベルアップしていくことに意義があると思う」と述べていた。
勝負にかける熱意、意気込みを前面に押し出していた山本氏とは対称的であったが、
プロ棋士を目指して夢破れた人間の将棋に対する思いが、そんなにあっさりしているはずがない。
将棋界に、プロ棋士に、将棋に対する夢、憧れ、嫉妬、憎悪。恐らくあらゆる感情があって
それらを原動力にして今日、優勝トロフィーを掲げるに至ったのだと思う。本当におめでとうといいたい。


それでも私は、贔屓といわれるかもしれないが
批判を浴びる覚悟も背負って「名人と戦いたい」と発言し、あらゆる面でコンピュータ将棋の道を切り開いてくれた
山本一成氏に、準優勝おめでとう、と心から言いたいと思う。
戦前にtwitterでも書いたとおり、私は勝っても負けてもponanzaファンであり続けるだろう。



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しかしもしこれで、"羽生善治対コンピュータ将棋"が遠のいてしまうとしたら、これは残念では済まされない。
これはあらゆる批判反対意見を超えてなお、電王戦やコンピュータ将棋を含めた、多くの将棋ファンの悲願である。


コンピュータに対する反対運動というのは、歴史は非常に古い。
有名なのはラッダイト運動であろう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%88%E9%81%8B%E5%8B%95

丁度これに関して、山本一成氏がブログに綴っているのでこちらも参照しておく。
http://ponanza.hatenadiary.jp/entry/2014/04/11/034549

実は、コンピュータ将棋に対する嫌悪というのも歴史が古いらしい。
こちらは手元にある「ルポ電王戦」(松本博文著 通称mtmtさん)で初めて知った情報であるが、
まだコンピュータが詰め将棋で初段くらいの実力、指し将棋はルール通りに指すのが精一杯であったという1968年。
1年間にわたって行われたアマチュア級位者~有段者とコンピュータ将棋との、詰め将棋対決の模様が朝日新聞に載っていたそうだ。
そしてコンピュータに破れた人達の、言い訳・非難・嘆きといったものの見苦しさたるやすさまじい(と断言する)。
曰く「機械には心がない」だの、「金を掛けたのだからできて当たり前」だの、「機械と競争などバカらしい」だのと。
一生懸命知恵を絞って、誰かが作り出したコンピュータであるに決まっているのに、だ。

創造主(神)に成り代わって人造人間やロボットといった被造物(=生命)を創造することへのあこがれと、さらにはその被造物によって創造主である人間が滅ぼされるのではないかという恐れが入り混じった複雑な感情。
これを"フランケンシュタイン・コンプレックス"と名づけたのは、ロボット三原則で有名なSF小説家アイザック・アシモフである。(ぶっちゃけフランケンシュタイン・コンプレックスで調べて今知った)
人類はまさしく産業革命によって自分達の仕事が奪われることを恐れラッダイト運動を起こし、
コンピュータに詰め将棋で負ければコンピュータを罵倒してきた、というわけだ。
しかしながらこれは、産業革命によって生まれる新しいビジネスチャンスや
コンピュータを利用した将棋の学習法や、もっと切迫した問題を山本氏が挙げている通り
クローン技術によって救えるはずの大切な命などは、考慮されていない。

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080223

とある人物の言葉を引用すると、「我々は初めて火を使った人類の末裔である」のだ。
新しい技術の発展・発掘が、社会的弱者であったり遠い我々の子孫であったり
誰かの何かの役に立つことが、必ずあるはずである。
豊かさとは、きっとそういうことのためにあるはずなのだ。
と同時に、あらゆる技術をまず軍事転用に考える人類の業の深さというのも、我々は深く省みる必要もあるのだろう。


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「もしプロ棋士がコンピュータに負けたら、プロ棋士はその存在意義を失う」
という言葉は、常々聞かれてきた。そしてそれがあるからこそ、プロ棋士対コンピュータは去年まで実現しなかったのだろう。
そしてそれは現在ではこのように言い換えられている。
「もし羽生善治がコンピュータに負けたら、プロ棋士はその存在意義を失う」と。
ではプロ棋士の存在意義とは、価値とは。いったいなんなのだろうか。
もしコンピュータに負けることでその価値が失われるとするならば、プロ棋士の価値とはその強さのみであって
強さで全てを解決してきた人達が、自分より強い存在によってその価値を否定されるという、当たり前の事実がそこにあるだけではないだろうか?

しかしながらチェスの世界では決してそうなってはいない。カスパロフがディープ・ブルーに破れて久しい今、コンピュータチェスはスマートフォンでも人類を圧倒するほどに強くなった。
それでもプロのチェスプレイヤーは世界中に大勢いるし、彼らは依然として多くのチェスファンから尊敬の対象となっている。
日本将棋連盟が対コンピュータという局面において、自分達の存在意義、価値をめぐって揺れている現在。
だがこれは、将棋連盟の今後が危ぶまれているということではきっとなく
今まで将棋連盟が、自分達の棋力ということ以外のどのようなことに
自分達の価値を見出してこれたか、ということが強烈に試されているのである。

私は羽生名人対コンピュータ将棋の実現を心から望んでいる。
これは同時に、もし羽生名人が敗れたとしてもプロ棋士への尊敬の念は全く揺るがないからであり、
多くの人に取っても同様であると、信じているからである。


この一件に関しては大変残念なことに、山本一成氏に対する非難の声もかなり挙がった。
例えば「調子に乗りすぎ」とか、「プロ棋士への敬意がない」とか、「将棋連盟の不利益を考えろ」とかである。
しかし私はまだまだ子供だからか、こういう声にもいちいち憤慨してしまう。
山本氏は自身の立ち位置を踏まえた上で、コンピュータ将棋全体を代表して発言していっているのだと思うし
ponanzaをどこまでも強くするということこそ、プロ棋士に対する最大の敬意であるはずだ。
そして将棋連盟が被る不利益を鑑みることなど、相手に対する敬意に含む必要はない。
でなければ羽生七冠達成か?と沸き立つ中で防衛、七冠を阻止した当時の谷川王将は、
将棋界に対する甚だ不敬物ということになってしまう。
あるいは翌年達成された七冠に対して、「全棋士に取って屈辱です」と答えた森下九段も、だ。
将棋そのものに対する探究心と、相手に対して勝率を最大化する努力以外に、対戦相手に対する敬意などないはずなのだ。

GPS将棋開発者の金子さんだったと思うが、第2回電王戦で約700台のクラスタ構成で出場したことに関して、
「初めてプロ棋士に勝つコンピュータになる可能性を考えれば、"もう少し強くできる"と余力を残した状態で戦うのは失礼だと考えた」という趣旨のコメントをどこかで聞いた。(論文に記載されてたのかも)
勝負事の常識として考えれば、これだけ負けが続いていながら
羽生名人という最強のプレイヤーを出そうとしない将棋連盟は、対戦相手に対して非常に無礼であるといわざるを得ない。
プロ棋士を相手に、開発者の方々は「コンピュータを強くする」という形で、最大限の敬意をプロ棋士に払っているのだ。
むしろ本来それを尽くすべきは、ここまで負け越しているプロ側のはずなのだから。


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以前も書いたが、コンピュータと人間が将棋というゲームを通じて
非常にいい勝負を繰り広げているという事実の持つ価値・神秘さ・ロマンを、関係者は今一度省みるべきだと強く思う。
そして歴史上最強であろう男が、今まさに名人に君臨している。こんな好機はこの先訪れない。この対戦を実現させない手はないはずだ。
コンピュータ将棋に賭けてきた男達の情熱のゴールを、どうか用意してやってはくれないか?
そう願ってならない。

羽生名人対コンピュータ将棋が、パッキャオ対メイウェザーのように実現しないか、
タイソン対ホリフィールドのようなショッキングな結末になるのか、デラホーヤ対トリニダードのような凡戦になるのか。
しかし私は、レナード対ハーンズのような、名勝負が生まれるような気がしてならないのだ。
日本将棋連盟の英断に期待する。
  1. 2014/11/04(火) 00:30:22|
  2. 将棋
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電王戦タッグマッチ2014 1stROUND終了時点での雑感

コンピュータ将棋と人間がタッグを組んで戦う電王戦タッグマッチ2014。
昨日で1stROUNDのABブロックが終了。
Aブロックからは森下九段-ツツカナタッグ、Bブロックからは西尾六段-ponanzaタッグが勝ち上がり
前回王者の佐藤慎一四段-ponanza2013タッグ、初参戦の久保九段-習甦タッグを加えた
10月の決勝ROUNDへとコマを進めることとなった。


今回は去年から参加棋士も増え、
脳波の値を測定するヘッドマウントディスプレイや眼鏡型タブレット端末グーグルグラスなど
新しい機能も追加して、よりゴージャスなイベントとなった。
再来年からの本格棋戦化に向けて、ドワンゴ社の気合の入りようが伺える。
予選ラウンドが終わったこの段階で、ここまでの雑感をつらつらと書き連ねるとする。


まず目に付いたのは、やはり運営ミス。マルチアングルの脳波はさすがにいらない。
またタブレットとの連動が上手くいっていないのか、コンピュータ将棋のトラブルがかなり目立つ。
ツツカナが詰みを発見して評価値が0になるのは明らかにバグだし、
その後両コンピュータが使えなくなったのは、このイベントの意義を考えるにあまりに致命的なミスである。

しかしこれも概ね初日のAブロックのうちに問題が出切ったこともあり、
Bブロックではその問題の多くが修正されていた。
咄嗟にその場で24点法計算プログラムを作ったあたりを思い出すが、やはりドワンゴの問題修正能力は高く評価すべきだと思う。
ここはやはり新しい会社ならではの小回りの利き方だろうか。

とはいえこういった問題の影響もあって、将棋会のリビングレジェンド
加藤一二三九段の電王戦初参戦の場をいい形で迎えられなかったことは、視聴者としても痛恨の極みである。
中村六段-習甦タッグと初戦で当たったというのもあって、この本来大変貴重な場になるはずの対局が
なにやらあっさり終わってしまった、という感想しか残らなかった。

また、今回の形式として対局者がタブレット端末を操作して
自分でコンピュータ将棋に局面を読ませるという形になったのだが、これも個人的にはいまいち。
これは邪推になるが、やねうらおこと磯崎氏と佐藤紳哉六段を鉢合わせることを避けるための措置だったと予想しているのだが
この形式によって「開発者とのコンビで戦う」という、いい意味でのいわゆる「少年ジャンプ的」な熱が削がれてしまったように感じる。
特に前回は優勝した佐藤慎一四段-ponanzaタッグにおける山本一成氏のオペレーターとしての優秀さというのも
見ている限りかなり大きかったように思える。
コンピュータ将棋が人間を凌駕するとしても、そのコンピュータを作ったのもまた人間であり
どこまでいっても人間対人間の戦いなのである、という第2回電王戦第3局のPVの下り。あれは電王戦において一番のミソであると私は思うのだ。

将棋に関しては、森下九段-ツツカナタッグと西尾六段-ponanzaタッグは
素人目にみてもやはりブロック内で一番強かった。
昔実際にいわれたことだそうだが、終盤間違えない森下卓は本当にここまで強かった。
そして西尾六段とponanzaは相性が良すぎる。


丁度昨日がBブロックの対局だったので、まずは記憶が鮮明なこちらから振り返る。
やはり印象に残ったのは西尾六段-ponanzaタッグの強さである。
ともすれば暴れ馬のように強引な攻めで自らの首を絞めてしまいそうなponanzaであるが、
的確に手綱を絞ってコントロールし、そして見事にponanza流の圧巻の攻撃力を炸裂させた。
このponanzaの暴力、私は今将棋界全体を含めてもっとも好きな将棋である。

さらに驚いたのは、決勝の攻めの着火点となった△8六歩の仕掛け。
私はぱっと見で、アマチュア100万円チャレンジでよく見たponanzaの仕掛けだなぁと感じたのだが
この手は西尾六段が自力で指し、ponanzaは全く別の手を示していたとのこと(△3一玉とかだっけな)。
そしてこういう手から、ponanzaは幾多の強豪をメッタ斬りにしてきたのである。
その展開にponanzaを放り込むような西尾六段の絶妙な誘導、本当に彼は良くponanzaを知り尽くしていると感じた。
この後の応酬はあまりにも難解で、しかし恐らくコンピュータ将棋がプロ棋士を凌駕している部分が垣間見えた。

終盤の△5五金もどうやら人間には見えづらく、しかしなるほどという手。
こうやって将棋は勝つものか、ponanza流恐るべしと思ったのだが、これも西尾六段自身が考えた手とのこと。
それはさながらsaiが乗り移った進藤ヒカルのように、ponanzaという異質の強さが
西尾六段自身を一回りも二回りも大きくしているように感じた。
ponanza最大の持ち味である攻撃力を絶妙に発揮させた西尾六段には、一人のponanzaファンとして感謝である。


時系列は前後してAブロック。こちらも森下九段の強さが光った。
戦前の予想通りどうやらツツカナとの相性はよく、難解な序盤で的確にリードを重ね
終盤は抜き去っての磐石の勝利、とここで話が終わらないのはご覧になった皆さんであればご存知のところ。

決勝は詰みを読みきった直後ツツカナの点数が0に。森下ツツカナタッグの初戦でも同様の動作があったので
なんらかのトラブル含みなのか仕様なのかいまいちわからなかったが、
結果的には森下九段がツツカナのバグと勘違いし、詰みを逃してしまう。

説明を聞くに、△9五香で4000点オーバーの点数がありこれで勝ちなら、と指したが
次の応手が▲9七桂と表示され、これはバグったと愕然として
詰みを追わずに手を戻さざるを得なくなった、とのこと。
これは森下九段のミスと、ツツカナが詰み発見時に0表示になる仕様orバグが重なったために起こったことである。

コンピュータは詰みを発見したら、詰み手順は全て同一とみなし区別しない
本譜はやはり△9五香から詰みがどうやらあり、清算して8七から角を打つような手順でちゃんと詰むらしい。

感想戦によると△9五香▲9七歩△8七角▲8六玉△9七香成▲同桂△7八角右成▲同銀△7七金 と進む。
ちなみに以下は▲同銀△同歩成▲9九玉△8八銀▲同飛△同と▲同玉△8七銀成▲9九玉△9八飛▲8九玉△8八飛成、等の手順で詰む。もっと早く詰むかもしれないが。

しかし最長の手順で粘ろうとするのは人間だけで、コンピュータにとっては
このような長手数の詰みも、△9五香▲9七桂からあっさり詰むのもなんら変わらないのだ。
確かponanzaは複数の詰み手順が見えたときに、受け方が長い手順を選択するよう調整しているそうなのだが
ツツカナにはそういった機能が恐らくなく、どうせ何やっても詰みだから▲9七桂でも表示させとくよ、としたわけで
▲9七歩とされていたら恐らくちゃんと△8七角を示してくれていたはずであった。

だが森下九段はこれをツツカナのバグと認識してしまった。
これは詰みを0点と表示したツツカナの仕様(?)も影響していたと思う。もし9999だったらさすがにもう少し信用できたのでは、と思う。
結果後手は手を戻して慌てて引き返す。詰みを免れた先手玉も建て直しつつ逆襲に回り形勢は混沌とする。

終盤第2Rはさらなるトラブルが発生。
なんと両者(だったかツツカナだけだったか)、コンピュータが使えない状態になってしまう。
ちょっと具体的にはよくわからないが、タブレット端末上の盤面が初形に戻ってしまい検討不可の状態になってしまった、とのこと。
両者使えなかったのか森下九段だけ使えなかったのか、森下九段だけ使えないことを考慮して
いささかラフプレー(では済まされない)ながら中村六段の方も使えないようにしたのか、そのあたりはいまいち分からない。

相入玉すらうっすらと見えるような乱戦、師匠を思わせる泥沼流の粘りを見せる中村玉であったが
攻めの要の龍を抜かれ中段の森下玉が詰まない形になったことが決め手となり、
左辺を必死で開拓せんとした中村玉がついに掴まり、終局となった。
58手目から森下九段-ツツカナタッグ1手30秒、71手目から両者30秒であったが
事実上は45手目からほぼ両者1手30秒以内での応酬が続き、それが様々なトラブル、ドラマを織り交ぜながら196手まで続く大熱戦であった。


長い序盤戦を抜けた45手目からの戦いは、間違いなくここまでの全対局中ベストバウトである。
(タイムシフトをご覧になる方は、解説が三浦-藤井タッグから高橋-屋敷タッグに変わった瞬間から見ればわかりやすい)
途中森下九段のミスによって形勢は混沌とし、最終盤では両者コンピュータが止まるというアクシデントの中
1手30秒の激戦を自らの力で戦い続け、拮抗した勝負を続けた両者には多くの将棋ファンが惹きつけられたことだろう。

twitterでも少々書いたが、ここまでソフトの強さがこれだけ示されてきていながら
人間の凄さを感じなかった対局など、電王戦関係でただの一つもない。
本局もコンピュータが止まってからこそが人間の凄さが最も発揮され、そしてそこがここまでで最大の見せ場であった。
電王戦の意義を考えるとするなら、それは対局の勝敗もさることながら
コンピュータという異なる存在と戦う、棋士の姿そのものに価値がなければいけない。
電王戦タッグマッチ2014、ここまでやや賛否両論の声はあるものの
電王戦の意義を損なうイベントであったとは私は思わない。
プロ棋士の強さ、勝負に殉ずる人間の美しさを堪能させて頂いた。森下九段-ツツカナタッグには心から拍手を送りたい。

しかしながら、そういったドラマのきっかけは、やはりミスやトラブルがきっかけでないことが望ましい
できることなら両者両タッグがミスらしいミスもなく最善を尽くし、その上で人間の強さが最後に輝くという
去年の決勝のような対局をもう一度見たい、と願っている。
  1. 2014/09/24(水) 07:07:38|
  2. 将棋
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電王戦FINAL、タッグマッチ、橋本批判に対する反論など

先日の「電王戦に関する記者発表会」、一般観覧の抽選に当選したため行って来た。
そこでいくつかの新しい発表があったので、まずはまとめる。

まず、電王戦の5:5の対抗戦という形式は次回が最後となった。
これで勝てなければタイトルホルダーを出すしかない、という5人を選抜して勝負するとのこと。
さらに具体的に「若手、勝率6割5分以上、コンピュータ将棋に対する知識がある」という条件を満たした5人を選ぶと明言。
この条件に当てはまる人間で、かつ後述のタッグマッチに出る中村太地六段、
すでに出場した菅井五段や豊島七段は恐らく除外と考えると、相当に候補は絞られる。

さらに発表が10月とのことで、これは現在竜王戦挑戦者決定戦に出場し
羽生名人から先勝を挙げた糸谷六段のスケジュールに合わせたものと考える。
(敗退なら出場、挑戦者決定なら恐らく欠場、竜王奪取なら間違いなく欠場と考えられる)。

タイトルはあくまでスポンサーの持ち物であり、そこに傷がつく可能性がある以上将棋連盟の自由にはできない、という前提があることは度々語られてきた。
しかしPVの中では渡辺明二冠の「そのときのタイトルホルダーが負けて終わらないといけないっていう部分もあると思う」等々、
''タイトルホルダーの出場に関して将棋連盟として最大限に踏み込んだ''と見える発言もいくつかあり、
この5人ではっきり負けるようであれば、タイトルホルダーを出場させる方向に向かうというニュアンスを感じた。


そして新企画として、去年行われた電王戦タッグマッチを今年9月~10月にかけて行う。
これは今回の電王戦を戦った5人から豊島七段(王座戦の挑戦者に決定)を除く4人が出場、
また第二回電王戦に出場した阿部四段、船江五段、そしてディフェンディングチャンピオンとして佐藤慎一四段も参戦。
さらに電王戦初出場の棋士数名が追加参戦。若手の精鋭中村太地六段をはじめとして
コンピュータ将棋への造詣の深さはNO.1と目される西尾明六段、最近話題のサブカル系棋士高橋道夫九段、
振り飛車党のトップ久保利明九段(!)、そしてリビングレジェンド加藤一二三九段(!!)が参加を表明した。

この第二回電王戦タッグマッチだが、二年後にタッグマッチを本格棋戦として行うにあたってのプレマッチという位置づけである。
2016年からは電王戦タッグマッチを棋戦として定期的に開催、名人戦・竜王戦に次ぐ賞金が用意されるという。
棋戦である以上ある程度あらゆる棋士に参加資格があることが望ましいが、性質上エントリー制になる可能性が高いだろう。
ただこれはまだまだ先のことで具体的には何も決まっていないということだった。


感想としてまず思ったのは、「これで負けたらタイトルホルダーを出すしかない」というのが次回のテーマとなるとのことだが、
恐らく世間の認識とはズレがあって、既にタイトルホルダーを出すしかないのでは?という見方のほうが大きいように思う。
やはりこれは森下九段の継ぎ盤案などと同じく、序中盤での技術では決して負けていないのに終盤に人間にミスが出て、
そこから逆転で負かされるという対局が多く見られたことに対する、プロ側の歯がゆさのようなものを感じた。

これは半分は正しく半分は間違っている。終盤をノーミスで指しきることこそ将棋における重要な技術であり、
そこで人間が劣っているということは、将棋の技術において劣っていることに他ならないのである。
(それこそ谷川会長などはまさに、その圧倒的な終盤力によって一時代を築いた棋士である)
しかしながら2勝7敗1持将棋という結果に比して、将棋の内容自体はどれも非常にいい勝負であることもまた事実であり、
ある程度以上の力の差があれば結果が10-0になってしまうはずの将棋というゲーム性を考えれば、
ここまでの人間負け越しの結果ですら実力は十分に拮抗していると考えている。
そして拮抗している以上、やる価値はまだまだあるはずだ、とも。


電王戦タッグマッチに関しては、率直にいって私は楽しみである。
まず今回の出場棋士が非常に魅力的である。特に初出場の5名に関しては見所沢山だ。
去年行われた第一回電王戦タッグマッチは第二回電王戦にも匹敵する非常に面白いイベントで、
お祭りムードの和やかな雰囲気ながらやはり対局自体はまさしく真剣勝負。

特に決勝の三浦GPS-佐藤ponanza戦は名局賞クラスの好勝負で、
三浦九段自身が考えた手で三浦タッグが優位に立つ中でも佐藤タッグがぎりぎり踏みとどまって食らいつき、
最後は佐藤四段自身が指した数々の絶妙手によって逆転という一局であった。
勝負そのものの熱さもさることながら、決してコンピュータ将棋が万能ではなく
終盤であっても人間が上回ることもあり、双方の良いところを合わせることによって
最高の棋譜が出来上がるのでは、という電王戦の理念「共存共栄」をまさに体現する有意義なイベントとなった。

簡単にいって、コンピュータ将棋の最高の使い手はプロ棋士であるはずだ。
私はアマチュア初段程度の棋力なので、プロ棋士の指し手の意味が分からないことは多数ある。
コンピュータ将棋の指し手はそれに輪をかけて、人間にはない視点から手が飛んでくる。
そしてそれが非常に好手であることも多いが、しかし現代のコンピュータをもってしても難解極まりない将棋というゲームにおいては
悪手である可能性もまだまだあるのだ。

ここを正確に判断し手綱を引いたり緩めたりする能力において、コンピュータ将棋というものの知識を正しく身につけさえすれば
盤上のエキスパートたるプロ棋士に勝るものはないはずなのである。
コンピュータとプレイヤーのコンビという対戦形式をチェスの例にならうとすると「アドバンスド将棋」という呼び名になると思うが、
(おおざっぱにいって)序中盤の技術に勝る人間と、終盤の正確さに勝るコンピュータが合わさることによって
きっと人間単体、コンピュータ単体の勝負を上回る質の高い棋譜が、今回も出来上がることだろう。

再来年からのタッグマッチ棋戦の構想に関しては、まだまだ決定事項が少ないため特になし。
個人的にはコンピュータ将棋という人間と異なる存在と、将棋というゲームを通じてほぼ互角の勝負を繰り広げている
この時代のありがたみというものを関係者はもっとかみ締めるべきではないか、と思う。
力が拮抗している限り、あらゆる試みをなんでもやって見て欲しいと願うばかりだ。



そんなことを思っていたら、橋本崇載八段がこれをツイッター上で批判、
タッグマッチ開催への反対運動をする、という旨の発言までしたというから驚きだ。
http://i2chmeijin.blog.fc2.com/blog-entry-984.html
http://i2chmeijin.blog.fc2.com/blog-entry-981.html
(2ch名人の記事で申し訳ないが、ツイッターの発言は一通りまとめられている)


はっきりいって、こいつはバカである。バカに反論すると自分までバカになりそうなので、
あまり真面目に反論するのも馬鹿らしいところなのだが、あまりに腹立たしいので一応ちゃんと批判記事を書いておく。

まず「ソフト指し」という言葉を使うところが非常に''不潔''である。
例えばアドバンスド将棋という適した言葉があるのに、恐らくわざとそういった汚い言葉を使う。
人間とコンピュータの融合によってよりよい棋譜が生み出せるか、ということが大きなテーマであるとこれだけ繰り返しいわれているのに、
あたかもそれが棋戦のレギュレーション云々ではなく、将棋というゲームの上で「不正」であるかのような言い回しである。

誤解している人間が、プロ棋士も含めて多すぎるのでここで一度、私なりの提言というか宣言をしておく。
恐らく多くの問題はこの一言で片付けられる。
将棋は人間のみならず、コンピュータに対しても平等であるべきだ
将棋というゲームはあくまでゲームであり、盤上を支配するのはルールという理論だけである。
そこに「人間であること」という参加資格などない。
さらにいえば将棋における定跡ですら、将棋のルールが決まったときからすでに盤上に「存在」しているものであり、
人間はそれを「発見」したに過ぎないのだが、定跡を人間が「作った」と勘違いしている者が多すぎる。

「人間と人間が指すから、将棋は面白い」というのは個人の感想として正しいと思う。
しかし、「人間と人間が指さなければ将棋ではない」ではあってはならない。
数学が「宇宙語」と呼ばれるように、将棋を支配するのは厳然たる将棋のルールのみであり、偶然の要素はない。
そこには言語や文化、ひいては生物無生物の垣根すら越えた交流があるからこそ
将棋はすばらしいのではなかったのか。

そういう意味でいうと私は「人間と人間が指す将棋」より、電王戦のほうがずっと面白く見える。
人間とコンピュータが将棋でいい勝負だなんて、こんなロマン溢れる話はないではないか。
その魅力に取りつかれて私は以前よりずっと将棋ファンになり、将棋に詳しく、強くなった。
同じように電王戦から入った新規将棋ファンはきっと多いはずである。

それを差し置いて「将棋の素晴らしさを伝え、棋士って格好いいなとファンに夢を与えるのが我々の仕事」などと、寝言は寝て言えよ、と思う。
電王戦こそ「将棋というゲームのもつ可能性の素晴らしさ、自らのアイデンティティを賭けて戦いに臨む棋士の格好良さ」を沢山のファンに伝えてきたイベントである。
橋本八段の発言は、将棋というゲームのもつ可能性をプロ棋士のテリトリーのみに狭め、棋士のプライドを守るために異なる存在を排除するという、非常に痛々しい主張にしか見えない。

ましてや例えば豊島七段のタッグ戦(ニコニコ超会議における豊島YSS-pona習甦ツツカナ戦)等に文句をいっていたわけではなく、
結局まず自分が参加しない(できない)であろうイベントに多額の賞金が掛けられるということが、
しかも自分の手の届かないところで勝手に話が進むことに耐えられないだけでは、恐らくないだろうか。
「反対運動」などと大仰なことをいうなら普通はツイッターなどにいきなりは書かないので、恐らくノープランであろう。
自身にきちんとした主義主張があるのなら、しかるべき手順と方法を持ってそれを示して頂きたいものである。
腕がトップには微妙に届かず、上にも下にもいけないから足りない部分を口で補おうとする、というのは
ハンパな腕の音ゲーマーにすごく多い例で、私はそういう矮小な人間を山ほど見てきた。
知性の象徴たる将棋のプロといえど、こういう人間も中にはいるということなのだろう。


丁度最近アウトフォクシーズ(を含む複数のゲーム)で、強くなったばかりに対戦相手がいなくなるという
腑に落ちない経験を多くしているので、コンピュータ将棋開発者の方々にはすごく共感できる部分がある。
(彼らほどすごいことを私がしているわけではないと思うが)
是非とも将棋連盟は、将棋ファンやスポンサーの目を意識する余りに
最も大切な、対戦相手に対する敬意というものを忘れてしまうことがないようにして頂きたい。
例えば私のように羽生渡辺森内ファンであり、豊島ファンであり、その他多数のプロ棋士ファンであると同時に
ponanzaのファンでもある、という将棋ファンもいるのだから。
  1. 2014/09/02(火) 19:15:01|
  2. 将棋
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