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UMEのスパ天における実戦からチョイス、印象に残ったスパーを徹底解説!

観戦記 電王戦FINAL第1局 斎藤慎太郎五段 vs Apery 後編


夕休が空け、都合1時間半ほどの時間を使って考えた末
斉藤五段の着手は、▲6五龍であった。


銀を取った!これで勝つる!


以下は解説どおりの手順で、△5六銀▲6四龍。
△6三歩なら長引くが角が隠居しありがたい手。△6六歩だと恐らく7七まで龍を引かされて少々億劫か。
本譜は後者、△6六歩▲同龍△6五歩▲7七龍と進む。持ち駒をほぼ全て投入し局面をなんとか後手が戻した格好。


散々解説されたとおりの順へ進む


ここから△2七角成と出る手がなかなか手ごわく、まだまだ勝負は続くというのが解説の意見であったが、
後手は△2二飛と回る。
一度歩を叩く手も感触がよく、4九の金を3九に寄るだけで△2九飛成を消せる。一目ありがたい手に見える。

以下は△2七角成としていた場合の仮想局面である。


習甦の読み筋による進行はこう。4一の銀と1二の飛車の位置はやや不確定


解説通り▲2三歩△3三飛▲3九金と進み、後手からの追撃は△4五角。
まだまだ楽勝とはいえないにせよ、やはり一目△2七角成に比べ損しているように感じる。

これに対しては▲4六歩と一回入れるのが上手い手で、7二への利きと6七への利きのいずれかを消せる。
2二の飛車を2三に釣り出した効果で飛車の横利きも消え、先手からは6一角が絶好。
なので後手から何か妙手が必要な局面だが、一直線に局面が進む。

▲4六歩△6七と▲4五歩△7七と と後手は龍を取る。
龍を取るよりは△6六歩と繋ぐ方がまだ良さそうに見えるし、事実上龍と角・と金の2枚替えである。
現地解説会の村田五段がこの手を見てテンパった様は、今局のハイライトである。
(「この手は絶対ないでしょう!」みたいな前フリがきっとあったんだろう)


村田五段「りゅりゅりゅ、りゅうを取ったんですかぁ!?」


先手は▲同桂。これもまた攻めにも利く味の良い手。
△6六歩と応援、しかしここで▲6八歩が利くのも心強い。
恐らく決めにいく順もあるが、6八歩といったん構えてから勝負が本線と解説される中、斉藤五段の手がしなる。
▲6一角と最短で決めにいった。



「運命は勇者に微笑む」を体現する一手となるか?


一手差で勝ちを見切った、だが同時に怖い手順ではある。恐らく△6八歩のほうが安全であっただろう。
しかし斉藤五段は6八歩の安全性と、勝負が長引くことのリスクとの比較で、踏み込む選択肢を選んだ。
コンピュータを恐れず、侮らずに踏み込んだ。気力充実の一着といえるだろう。

先手は△6七と、目をつぶって先手陣に迫る。
しかし▲6二銀の詰めろが激痛。△同銀▲7二金△9二玉▲6二金 が銀を取りながらの詰めろなのだ。
後手が何もしなければ▲8三角成△同玉▲7二角。
引けば▲8三銀、上がって一番長くとも△9四玉▲8四銀△9五玉▲9六歩 まで。




斉藤五段、強すぎる


コンピュータには形勢を悲観したときにしばしば出る「水平線効果」という現象がある。
すぐそこに迫っている自身の負け(ないしそれに順ずる劣勢の局面)を先延ばしにするため、
無駄な手を出してしまうことがある。
自玉必至で相手玉詰まないという局面での王手ラッシュが有名である。
(コンピュータの詰み発見能力と相まって、区別がたまにつかずちょっと怖い)

後手は△7九銀と王手で捨てる。これは「粘り」と「水平線効果」のちょうど狭間にあるような手である。
玉を6筋まで釣りだして例えば△6四飛等で金を抜き、なんとか自玉の詰めろを外そうとしているのだ。

▲同玉に△6八金。▲8八玉とかわせば大丈夫だが一見怖い。
▲同玉なら△6六飛か6四飛で6八の金を抜かれて長引く。
しかし斉藤五段、きっちりと見切って△8八玉。▲6一角と踏み込んだ手と一貫性のある、強い姿勢だ。

△7八金と銀を取り▲同玉に、△8九銀。さらに水平線効果寄りの手といえるだろうか。
なんとかして十字飛車で6八の金の素抜きをしたい後手だが、ここも先手は勇敢に▲7九玉とかわす。
△5九飛なら▲8九玉、△7八飛なら▲6九歩でともに詰まない。



最後の抵抗を凌ぎきった


視聴者としては、完全に安心できた一手が次の▲7八銀成だろう。
打ったばかりの銀を成り捨てて玉が戻る、銀を相手の駒台に渡す以外の意味が皆無の手である。つまり、万策尽きたのだ。


ついに出た水平線効果、事実上の敗北宣言


開発者の平岡氏によると、今回のAperyは投了をしない設定になっているとのこと。
もう残された手段は王手ラッシュのみ、後手は可能な全ての手段を尽くして王手をかける。
しかしもちろんそれでミスをするプロ棋士ではない。冷静に駒をひとつずつ外し、勝ちが目前に迫る。



これも綺麗な決め手である


可能な王手を全てやり尽くし、まさに矢尽き刀折れたApery、そっと△9四歩と突き首を差し出す。
以下▲8二金△同玉▲7一角△9二玉▲7二飛で詰み。
一応電王戦では無駄合いもカウントするらしく、△8二金▲同龍まで。115手をもって先手斉藤五段の勝ちとなった。



電王戦FINAL第1局は人間の勝利!


局後の会見では、まず斉藤五段と平岡氏ともに相穴熊での戦いを想定していたらしく、
本局の△6五銀と繰り出すあたりはお互いにとって予想外の進行であったという。

他に斉藤五段は、いくつか途中Aperyが一旦受ける手を選んでいたら難しかったかもしれない、とも語っていた。
確かに本局はAperyが勝負どころでことごとく一直線に攻め合う手を選び、
しかしそれがことごとく自身の劣勢を早めたように見える。
乱数等による偶然もあったかもしれないが、平岡氏は「棋風と戦法があっていなかったのかもしれない」と
根本的な問題も感じていたようであった。

一局を通じてAperyは自身の形勢をかなり悲観していたらしく、
中盤の△4四角▲5五角△同角▲同歩という応酬が、どうもその悲観の末出た水平線効果だったらしいとのこと。
この応酬によって先手が0手で突き越せた5五の歩も先手に得に働き、Aperyとしては不本意な出来となってしまった。


平岡氏が語るところによると、「Aperyの読みを外す手を指され、そのたびに評価値が下がった」とのこと。
COMは当然自分の判断基準によって手を評価するので、通常読み筋にない点数を指せば
一時的にせよ点数は自身有利に傾く。
そうでなかったというのは、これも平岡氏が語っていたが、斉藤五段がことごとくAperyに読み勝ったということなのだ。
プロ棋士も「ノーミスで指し切った」と絶賛する、素晴らしい差し回しであったといえるだろう。


最終盤の王手ラッシュに関しては、斉藤五段に事前に断りをいれていたとのこと。
少々見せ場のない局面が一定時間続いてしまうことにはなったが、
現在プロ棋士を凌駕せんとする勢いを持つコンピュータ将棋も、一見幼稚なこの王手ラッシュからスタートした技術なのだ。
Aperyはその全てを曝け出して、華々しく散っていった。

解説の鈴木八段はいささかうんざりしていて、怒りの態度を示しているようにも見えた。
これが少々残念でもあったが、しかしプロ棋士はこれを潔しとしない文化から生まれた人種であり
これを侮辱と感じるのも、当然の感覚であろう。

だがコンピュータからすれば負けを確定させない手を選ぶのはきっと当然であり、
議論を呼ぶラストも電王戦という「共存共栄」のテーマを思えば、意義のあるものだったと思う。

勝負の勝ちだけを追い求めるなら、投了に勝る悪手なしであり、コンピュータはどこまでも諦めない。
正確にいえばコンピュータに「心」があるわけではなく、コンピュータは負けないための手順を
盤上のルールに従って、粛々とただ実行するのである。
そこを「見苦しい」、あるいは「諦めない気持ち」と、感情に例えて受け取るのは我々人間の観点によるところである。
「共存共栄」とはきっと、コンピュータの無機質な一手一手に、
我々人間が何を見出せるか、というところがミソなのではないだろうか?

異なる思考ロジックを持ち、生物無生物という大きな違いを持つ者同士が
将棋というツールにおいて平等に対峙する、電王戦というイベント。
その素晴らしさの醍醐味が詰まった名局、とくと堪能させていただいた。

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  1. 2015/03/17(火) 16:51:51|
  2. 将棋
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